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京都地方裁判所 平成4年(行ウ)8号 判決

原告

伊藤堅二

外一〇名

右原告ら訴訟代理人弁護士

籠橋隆明

小笠原伸児

被告

谷口義久

株式会社亀岡都市文化開発機構

右代表者代表取締役

山名義雄

右被告ら訴訟代理人弁護士

納富義光

松枝述良

主文

一  被告らは、各自、亀岡市に対し、六億五四〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文第一項につき仮執行宣言を求めるほかは、主文と同旨。

第二  事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、亀岡市の住民である原告らが、

1  亀岡市長である被告谷口義久(以下「被告谷口」という。)は、被告株式会社亀岡市文化開発機構(以下「被告会社」という。)との間において、第三者所有地の定着物(ないし土地の構成部分)であるため同土地と別個に所有権移転を受けることができない後記体育施設(本件施設)を代金六億五四〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、右違法(無効)な売買契約の締結の結果として、亀岡市が右代金の支払として六億五四〇〇万円の公金支出(以下「本件公金支出」という。)をするという事態を招来し、同市に対し右同額の損害を与えた(第一次的主張)、

2  右被告谷口は、被告会社との間において、右売買契約を締結するとともに、助役及び補助職員をして、代決ないし専決により、被告会社に対し、右のとおり本件公金支出をさせ、右違法な売買契約の締結及び本件公金支出により、同市に対し右同額の損害を与えた(第二次的主張)、

3  右売買契約がそもそも存在しないにもかかわらず、右被告谷口は、助役及び補助職員をして、代決ないし専決により、被告会社に対し右のとおり本件公金支出をさせ、右違法な本件公金支出により、同市に対し右同額の損害を与えた(第三次的主張)、

として、被告谷口に対し不法行為ないし債務不履行に基づき右同額損害の賠償を求め、右売買契約及び本件公金支出の相手方である被告会社に対し、不法行為に基づく右同額の損害の賠償ないし不当利得に基づく右同額の利得金の返還を求めた、地方自治法(以下単に「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟である。

二  争いがないか、容易に認定できる事実

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも亀岡市の住民である。

(二) 被告谷口は、亀岡市長であり、普通地方公共団体である亀岡市の長として、公金の支出等の財産管理処分権を有し、法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に該当する。

(三) 被告会社は、昭和五六年九月八日、「JR西日本の旅客駅と一体として設けられる店舗及びサービス施設等の建設・管理を行う事業」等を目的として、亀岡市及び地元商工会議所等によりいわゆる第三セクター方式で設立された株式会社であり(甲一)、本件の売買契約ないし本件公金支出の「相手方」(法二四二条の二第一項四号後段)に該当する。被告谷口は、設立当初から平成三年五月三〇日に辞任するまで、被告会社の代表取締役の地位にあった。

2  オクラホマ州立大学京都校(以下「OSU―K」という。)の誘致活動

昭和六〇年一一月、亀岡市は、米国オクラホマ州スティルウォーター市と姉妹都市盟約を締結した。昭和六二年(一九八七年)から昭和六四年(一九八九年)にかけて姉妹都市盟約に基づく交流の一環として、OSU―Kの誘致活動が行われ、OSU―Kは、平成二年五月、開校した。そして、OSU―Kは、被告会社が主体となって経営することとなり、その設立にあたっては、被告会社が学校敷地を造成し、付属の体育施設等を建設することとなった。

3  財産区所有の山林に対する被告会社の林地開発許可申請

(一) 被告会社は、OSU―Kの学校敷地として造成し、体育施設を建設するため、山林の開発行為につき、京都府知事に対し、森林法一〇条の二に基づく林地開発許可申請をすることとした。ところが、森林法施行規則(昭和二六年八月一日農林省令第五四号)八条の二第二号は、申請書に添付すべき書類として「開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類」を指定し(以下「第一指定」という。)、更に、昭和三七年農林省告示第八五一号(森林法施行規則四四条の規定に基づく申請書等の様式)6の2は、右森林法八条の二の申請書の様式を指定し、その注意事項2に「備考欄には、開発行為を行うことについて行政庁の許認可その他の処分を必要とする場合には、その手続の状況を記載すること」を指定している(以下「第二指定」という。)。

(二) 本件において、被告会社が林地開発許可申請の対象としている開発行為に係る森林の土地(別紙一の桃色で表示された範囲の土地がほぼこれに相当する。以下「開発対象地」という。)4.0576ha(但し、森林の他、農地、府道敷、官有地等を含む、開発行為をしようとする区域全体の面積は、8.5616ha)は、神前財産区(以下「財産区」という。)の所有地がその大部分を占めていたため、被告会社は、第一指定の要件を満たすため、財産区との間で、OSU―Kの学校用地に供する目的であることを明記した賃貸借契約を締結する方法をとることにした。

しかし、右賃貸借契約を締結するためには、財産区が予め京都府知事の認可を受けなければならないため(法二九六条の五第二項)、林地開発許可申請書に第二指定の趣旨に従い、財産区に対し、右賃貸借契約の申入れをしている事実を証するため、平成元年一〇月三一日付けの被告会社から財産区に対する「財産区用地借用の申入れについて」と題する書面を林地開発許可申請書に添付することとした(乙二)。

(三) このようにして、被告会社は、平成二年六月三〇日付けで、京都府知事に対し林地開発許可申請を行い、同年八月三一日付けで、京都府知事より右申請が許可された。また、財産区が京都府知事に対し求めていた前記賃貸借契約の認可申請も、同年九月三日、認可された。そこで、同月五日、被告会社は、財産区からOSU―Kの用地として使用することを目的として、財産区所有の面積六万三七七二平方メートルの土地を、賃貸期間二〇年、賃料年額六三六万〇七五〇円等の内容で賃借する旨の契約を締結した(その後、後記5(三)のとおり、本件の売買契約の締結に伴い、平成三年八月三日付けの変更契約をもって、右賃貸借契約が、財産区所有の面積三万七六五二平方メートルの土地、期間二〇年、賃料額年額三七八万五三七〇円等の内容に変更されている。)。

(四) 被告会社は、京都府知事の前記開発許可に基づき、開発対象地の造成工事を施工した。右造成工事費は、設計管理費を含めて四億七八七四万四〇〇〇円であり、本件の売買契約によって亀岡市が購入したとされる部分を設計図に基づき分別計算すると、四億一四五一万四〇〇〇円となる。

4  本件の売買契約の締結に至る経緯及びその後の売買変更契約

(一) 平成三年三月の定例亀岡市議会において、被告谷口は、「亀岡国際広場球技場」構想の一環として、保健体育施設の整備を図ることを発表し、同月一五日、被告会社から右造成工事によって作られた施設を購入するため、補正予算を提案し(甲七)、同提案は、同市議会において可決された。

(二) 同年五月三〇日、被告谷口は、前記1のとおり、被告会社の代表取締役の地位を辞任した。

(三) 同年六月の定例亀岡市議会において、法九六条一項八号、議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(昭和三九年四月一日条例第一号)(以下「財産取得条例」という。)に基づく六億五四〇〇万円の財産取得議案(甲八)が提案され可決された。法九六条一項八号は、「政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分」について議会の議決を要すると定め、これを受けて、同法施行令一二一条の二、第二項が同令別表第二に従って基準を定める。別表第二は、「不動産もしくは動産の買入れ売払い」の場合のみを議決の対象としている。また、法九六条一項八号にいう条例とは本件の場合、右財産取得条例であるが、同条例三条は、「不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い」と定め(甲二七)、条例別表第二と対応させている。

(四) 同年六月八日、被告谷口は、亀岡市を代表して被告会社との間で次の内容の売買仮契約(以下「本件仮契約」という。)を締結した(甲一八)。

(1) 体育施設の名称

亀岡国際広場球技場

(2) 施設の位置、構造等

球技場(多目的グランド、ポール掲揚台を含む)、テニスコート(二面)、イベント広場(駐車場)、シンボルロード、パーゴラ、モニュメント、便所、倉庫(以下全てを「本件施設」という。)。本件施設の設置状況は、別紙一のとおりであり、そのうち、多目的グランド、テニスコート、倉庫の構造は、それぞれ別紙二ないし四(枝番を含む)のとおりである。

(3) 本件施設の底地

本件施設の底地は、3.7haの面積の土地であり、別紙一の橙色及び緑色で表示された範囲の土地である(以下「本件土地」という。)。

被告らは、本件土地の表層部分(以下「造成地」という。)も、本件仮契約の対象物件に含まれると主張している。

(4) 譲渡金額

六億五四〇〇万円

(5) 支払方法

本件施設の引渡し完了後、請求に基づき支払うものとする。但し、契約締結後に譲渡金額の内払いをすることができるものとする。

(6) 所有権の移転、引渡し

① 本件施設の引渡しと同時に所有権を移転するものとする。

② 本件施設の引渡しは、施設完成後、八月三一日までに、亀岡市長谷口義久及び被告会社代表取締役河原省記立会いのうえ、行うものとする。

(7) 仮契約

本件仮契約は、亀岡市長谷口義久がこの契約について、亀岡市議会の議決を得たときに、本契約となる。

(五) 同年六月二五日、本件仮契約は、亀岡市議会で可決され、本契約となった(右本契約を以下「本件売買契約」という。)。

(六) 本件施設は、財産取得条例による可決により公用財産に編入され、同年六月二五日、亀岡市営球場条例(昭和三九年亀岡市条例第一二号)が改正されたことによって(亀岡市営球場条例の一部を改正する条例)、亀岡国際広場球技場の名称で教育財産の一つとして教育委員会によって管理されている。

(七) 同年八月二六日、亀岡市長谷口義久及び被告会社代表取締役河原省記は、本件売買契約の内容を次の通り変更した(甲二四)。

(1) 本件施設の引渡しは、施設完成後、同月三一日までに右両名立会いのうえ、行うものとする。但し、モニュメントの引渡しは、施設完成後同年一二月二〇日までに右両名立会いのうえ、行うものとする。

(2) 被告会社代表取締役河原省記は、譲渡施設に係る瑕疵担保等について、亀岡市長谷口義久に引き継ぐものとする。

(八) 同年一二月二〇日、右両名は、本件売買契約のうちモニュメントの引渡しを施設完成後平成四年三月一六日までにすればよい旨に変更した(甲二三)。

5  OSU―Kの学校敷地及び本件施設の用地に関する土地賃貸借契約

(一) 平成三年六月八日(本契約は、同年七月一日)、亀岡市は、被告会社から本件施設の用地としてその所有土地のうち面積一万〇九三〇平方メートルの土地を期間二〇年、賃料年額一〇九万〇九八〇円で賃借した(甲一九、弁論の全趣旨)。

(二) 同年八月三日、亀岡市は、財産区から本件施設の用地としてその所有土地のうち面積二万六〇七〇平方メートルを期間二〇年、賃料年額二六〇万二三八〇円で賃借した(甲二〇)。

(三) 右同日、被告会社は、前記の通り、本件売買契約によって本件施設を亀岡市に譲渡したことに伴い、平成二年九月五日財産区と締結した前記3(三)の土地賃貸借契約を、賃借する土地の範囲を面積三万七六五二平方メートルに、期間を二〇年に、賃料額年額を三七八万五三七〇円等に変更する旨の契約を締結した。

(四) 平成三年一一月一八日、亀岡市は、財産区との間で、前記(二)の変更後の賃貸借契約の対象面積を二万六〇七〇平方メートルから二万三九七〇平方メートルに、また、賃料年額を二三九万二五〇〇円に変更する旨の契約を締結した(右変更契約は、同月一日から遡及して適用することになっている。)(甲二二)。

(五) 右同日、亀岡市は、被告会社との間で、前記(一)の賃貸借契約の対象面積を一万〇九三〇平方メートルから一万一三三八平方メートルに、また、賃料年額を一一三万一五七〇円に変更する旨の契約を締結した(右変更契約は、同月一日から遡及して適用することになっている。)(甲二一)。

(六) 右同日、被告会社は、財産区との間で、前記(三)の賃貸借契約の内容を対象面積三万七六五二平方メートルから三八一九平方メートルに、賃料額年額を三七八万五三七〇円から三八万一一五〇円に変更する旨の契約を締結した(弁論の全趣旨)。

6  本件公金支出

本件公金支出は、次の通り、助役が亀岡市長を代決し、企画管理部長が専決してそれぞれなされた。

(支出日)   (支出額) (支出命令権者)

平成三年七月一五日  一億九六〇〇万円

助役(代決)

同年八月三〇日  一億九六〇〇万円

右同

同年一一月五日  二億五三九二万円

右同

平成四年五月七日   八〇八万円

企画管理部長(専決)

7  監査請求

原告らは、平成四月一月二〇日、亀岡市監査委員会に対し、監査請求を行い、同月二九日、受理されたが、亀岡市監査委員会は、同年三月一七日付けで、原告らに対し、棄却通知をした。

三  争点

1  本件売買契約の無効(原告らの第一次的主張)

(一) 本件売買契約は、目的物の存在しない原始的不能を目的とする無効な契約か否か。

(二) 本件売買契約は、亀岡市が売買代金の対価に見合う権利を取得することのできないものであり、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないことを規定する法二条一三項及び地方財政法四条一項の趣旨に著しく反する無効な契約か否か。

(三) 本件売買契約は、公有財産の管理を定めた法二三八条一項に違反する無効な契約か否か。

2  本件売買契約の締結及び本件公金支出の違法性(原告らの第二次的主張)

本件売買契約の締結及び本件公金支出は、憲法八九条、法二条一三項、二三二条の二、地方財政法四条一項に違反する違憲、違法なものか否か。

3  本件公金支出の違法性(原告らの第三次的主張)

本件売買契約は、不存在か否か。仮に、これが不存在とすれば、被告谷口が本件売買契約の代金を助役及び補助職員に支出せしめた行為は、違法なものか否か。

四  争点に関する当事者の主張

1  本件売買契約の無効(争点1―原告らの第一次的主張)

(一) 原始的不能による無効

(1) 原告らの主張

イ 本件売買契約の対象物件である本件施設及び被告ら主張の造成地の性質は、次の通りである。

造成地 土地の一部(構成部分)

本件施設

球技場      右同

テニスコート   右同

イベント広場(駐車場) 右同

シンボルロード  右同

パーゴラ     土地の定着物

モニュメント   右同

便所       右同

ロ 造成地

土地とは、人為的に区画された地面に、社会観念上地表の支配に必要でありかつ十分な範囲において、その上下を包含せしめたものである。そして、地中の岩石、土砂、鉱物等は土地そのものを構成する分子にすぎない。そうすると、被告ら主張の原地層も造成地も同じ土地の構成部分として一個の土地というべきである。したがって、本件土地の一部にほかならない造成地を売買の対象とし、それを所有権の客体とすることは、民法二〇七条や一物一権主義という民法の基本原則に反し許されない。後記の被告らの主張からすると、造成地を本件売買契約によって購入した亀岡市は、その所有者になるはずであるが、本件の財産区及び被告会社との各賃貸借契約が終了した場合には、右造成地の収去義務が生じることとなって、不合理な結果を生ずる。したがって、本件売買契約によって造成地を購入したとする被告らの主張は、失当である。

(本件施設)

ハ 球技場

被告らは、球技場を構成する多目的グランドが地下工作物であると主張するが、これは土地そのものである。別紙二―1ないし4の図面によれば、多目的グランドは、地中に設けられた排水管と埋められた砕石からできており、これらは、土地の構成部分というほかなく、本件土地とは別個独立の物とは認められない。また、多目的グランドは、本来、OSU―Kに関する開発に際して生じる災害の危険を防止するための調整池であり、グランド上には独立の施設を作ることができない特殊な性質を有しているから、この点からも、到底、本件土地とは別個の物とはいえない。

ニ テニスコート

被告らは、テニスコートも地下工作物であると主張するが、右と同様、これは本件土地の一部である。別紙三―1ないし4の図面によれば、テニスコートは、地中に設けられた排水管、テニスコートの地中の砕石、開粒度アスコン、テニスコートの地表の透水型合成ゴム糸舗装材からなっており、土地の構成部分であるから、本件土地とは別個独立の物とは認められない。

ホ イベント広場(駐車場)

イベント広場(駐車場)は、アスファルト舗装が施されており、この舗装は被告らも認めるように土地の一部であって、本件土地から独立して所有権の客体になることはない。

ヘ シンボルロード

シンボルロードは、被告らも認めているように土地の一部であって、本件土地から独立して所有権の客体になることはない。

ト パーゴラ

なるほど、パーゴラは、土地の定着物であるが、周囲に壁があるわけでなく、独立して空間を囲い込む構造にもなっていない。したがって、パーゴラは、建物とは異なり、本件土地から独立して所有権の客体になるものではない。

チ モニュメント

これは、被告らも主張するように、土地の定着物であるが、土地に人工的に付着させたものにすぎず、土地の構成部分であるから、本件土地から独立して所有権の客体になることはない。

リ 便所

便所は、土地の定着物といえ、一応不動産とみうるが、球技場と一体となってその付帯設備として利用されて初めて経済的価値を持つものである以上、これのみを切り離して本件土地から独立して所有権の客体になるものと解することは妥当ではない。

ヌ 以上の通り、被告ら主張のように、土地を原地層と造成地に分離して、造成地のみを独立の所有権の客体とすることは、民法二〇七条、一物一権主義に反し許されないから、造成地は、本件売買契約の目的物とはなり得ない。また、右のとおり、本件施設は、亀岡市が財産区ないし被告会社から賃借した土地とは分離できない土地の構成部分ないし定着物にすぎないから、独立の取引対象とはならず、これらも本件売買契約の目的物とはなり得ない。

更に、被告らは、予備的に有機的一体性を有する球技場が、本件売買契約の対象になり得ると主張するが、球技場を構成する個々の施設が所有権の客体となり得るような性質でなければならないところ、右のとおり、本件施設は、いずれも独立の取引対象とはならないから、一体となった球技場が本件売買契約の対象になり得るとの被告らの予備的主張は失当である。

したがって、本件売買契約は、目的物を欠く原始的不能を目的とする契約であって、無効というほかない。

(2) 被告らの主張

(主位的主張)

イ 本件売買契約の対象物件である本件施設、造成地の性質は、次のとおりである。

造成地 土地の一部(構成部分)

本件施設

球技場 地下工作物ないし

土地の定着物

テニスコート   右同

イベント広場(駐車場) 土地の一部

パーゴラ     土地の定着物

シンボルロード  土地の一部

モニュメント   土地の定着物

便所       右同

ロ 造成地

後記(二)(2)ハのとおり、造成地も本件売買契約の対象になっているというべきである。そこで、造成地にも独立の所有権を認め得るかが問題となるが、現在のように経済の発達と技術の発達によって地下の利用が広く行われるようになってきた以上、地下についてのみ独立の権利を認める必要性は大きい。また、土地の区分所有権を認めた場合の公示方法も、技術的に克服できない問題ではないし、公示方法は、対抗要件にすぎないから、地下の各層の所有者が各所有権を認め合い、これで十分としている場合には、公示方法がないことを理由に各層の所有権を否定する理由はない(民法一七六条参照)。したがって、本件土地を表層部分である造成地と原地層の各層に区分し、造成地についてのみ区分所有権を認めることも法的には可能というべきである。

原告らは、土地の上下を区分し、各層につき異別の人々に各別に所有権を設定することは、所有権は上下に及ぶことを規定する民法二〇七条及び一物一権主義に違反すると主張するが、地下を区分し、区分地にそれぞれ異別の人々に所有権、賃借権、地上権(もっとも、昭和四一年になって地上権については立法的措置がとられた。)を設定し得ることは、今日の定説である。また、原告らは、被告ら主張の造成地の所有権を認めると、亀岡市と被告会社及び財産区との各賃貸借契約が終了した場合、造成地の収去義務が生じ、不当であると主張するが、造成地を収去することは物理的に不可能であり、そのことを当事者は十分承知のうえ、右各契約を締結したと解されるから、右各賃貸借契約における返還時期の合意は、賃料更新期であると解するのが当事者の合理的意思に照らし妥当である。したがって、原告らの右各主張は、それぞれ理由がない。

(本件施設)

ハ 球技場

球技場の多目的グランドの構造は、別紙二―1ないし4のとおりであり、これは地下工作物である。ポール掲揚台は、土地の定着物である。

なお、多目的グランドが調整池を兼ねていることは認めるが、これは、万一豪雨があった場合、下流の災害を防止するために一時的に貯留可能なように設計されたもので、山からの普通の雨水やOSU―Kの校舎の下水等は、別に設計された排水路で処理されることになっている。

ニ テニスコート

テニスコートの構造は、別紙三―1ないし4のとおりであり、これは地下工作物である。

ホ イベント広場(駐車場)

イベント広場(駐車場)は、アスファルトで舗装されているが、このアスファルト舗装は、本件土地の一部である。

ヘ パーゴラ

パーゴラは、本件土地の定着物である。

ト シンボルロード

シンボルロードのインターロッキング舗装は、本件土地の一部となっている。

チ モニュメント

モニュメントは、本件土地の定着物である。

リ 便所

便所は、本件土地の定着物である。

ヌ 以上のとおり、本件土地を原地層と造成地に分離して、造成地のみを独立の所有権の客体とすることは法的に可能であるから、本件売買契約には造成地という目的物が存在する。また、右のとおり、本件売買契約の目的物である本件施設は、本件土地の定着物ないし土地の一部として不動産である。したがって、本件売買契約は、右造成地及び本件施設を対象とするものであって、目的物を欠く原始的不能を目的とする契約ではない。

(予備的主張)

亀岡市が本件売買契約によって購入した造成地及び本件施設は、集合して球技場を構成するものであって、有機的一体となって独立の取引対象になり得るものである。したがって、本件売買契約は、目的物が存在しない原始的不能を目的とする無効な契約とはいえない。

(二) 亀岡市が売買代金の対価に見合う権利を取得できないことによる無効

(1) 原告らの主張

造成地及び本件施設は、前記1(一)(1)のとおり、いずれも独立の取引客体とはならないものである。そうであるから、亀岡市がこれらを六億五四〇〇万円もの高額の代金で購入することは、その対価に見合う権利を取得できないこととなって、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないことを規定する法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に著しく反する。その反面、被告会社は、不当に高額の代金の支払を受けることになる。したがって、本件売買契約は、法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に著しく反する無効な契約である。

(2) 被告らの主張

(主位的主張)

イ 本件土地のうち、財産区所有地上の本件施設の所有権の帰属

被告会社は、開発対象地に含まれる財産区所有土地を財産区から賃借して造成工事を施行し、本件土地の造成地上に本件施設を設置している。この場合、被告会社は、加工の規定(民法二四六条一項但書)の類推適用により、右造成地の所有権を取得するものと解すべきである。

なるほど、加工の規定は、動産に関し、他人の所有物に工作を加えた結果、「著シク材料ノ価格ニ超ユル」有体物が成立した場合、その物の所有物を加工者に帰属せしめると同時に、その代償として材料の所有者に償金を与えんとする制度である。しかし、加工原理が認められる根拠は、加工の結果、出来上がった有体物を壊して材料の復旧請求を許すことが不合理であり、社会経済上、不利益と考えられる点にある。そうすると、他人が不動産に工作を加え、その結果、「著シク材料ノ価格ニ超ユル」造成地ができた場合、これにつき、材料の復旧請求を許すことは、社会経済上不利益であり、このことは、動産に対する加工の場合と何ら異ならない。そうであるから、造成地にも区分所有権の成立を認め得ることを前提に、土地(不動産)にも加工の規定を類推適用し得るというべきである。右の考え方は、建築途中の未だ不動産に至らない建前に第三者が材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合における建物所有権の帰属は、民法二四六条二項の規定により決定すべきであるとして、建物に民法二四六条二項を類推適用した最判昭五四・一・二五民集三三巻一号二六頁の趣旨にも沿うものと考えられる。

本件において、被告会社は、開発対象地の造成に四億七八七四万四〇〇〇円の費用を投じている。この開発対象地が、造成前は山林であったことを考えれば、造成地の価格は民法二四六条一項但書に規定する「工作ニ因リテ生シタル価格カ著シク材料ノ価格ニ超ユルトキ」に該当するから、被告会社は、右但書の類推適用によって開発対象地のうち、財産区所有地の造成地部分の区分所有権を取得することになる。そして、右造成地上の本件施設は、造成地の構成部分ないし定着物(附合物)であるから、右施設の所有権もまた、被告会社に帰属することになる。

なお、被告会社が造成地を取得したことによる財産区の損失は、前記第二の二5(四)ないし(六)のとおり、平成三年一一月一八日の三つの賃貸借契約の各変更契約によって、財産区が二〇年間にわたって支払を受ける年間の賃料合計額三九〇万五二二〇円によって補償されるものと考えるべきである。

ロ 本件土地のうち、被告会社所有地上の本件施設の所有権の帰属

自己所有地といえども、土地を原地層と表層部分である造成地とに区分し、それぞれについて別個の区分所有権を認めることができるから、開発対象地のうち、被告会社所有地上の造成地も、被告会社に帰属し、その造成地上の本件施設もまた、造成地の構成部分ないし定着物(附合物)として被告会社の所有に帰属することとなる。

ハ 本件売買契約の対象物件

本件仮契約の施設目録の「施設内容」の項には、造成地は、掲げられていないが、本件売買契約の目的物は、施設目録に記載のない道路、浄化槽、生活排水施設、非常排水施設、グランド北側の五メートルのコンクリート擁壁、グランドを囲んでいる土手等も含まれていること、本件仮契約の契約書(甲一八)には、設計図に基づき分別した部分に該当する造成費四億一四五一万〇四〇〇円を含めた六億五四〇〇万円が売買代金とされていることに照らし、右施設目録に記載のない造成地も、当然、本件売買契約の対象に含まれているというべきである。

また、亀岡市は、本件売買契約の対象物件を利用するために、平成三年八月三日付けで財産区との間で二万六〇七〇平方メートルの範囲の土地を、同年六月八日付けで被告会社との間で一万〇九三〇平方メートルの範囲の土地をそれぞれ賃借しており、両者の合計は三万七〇〇〇平方メートル(3.7ha)となる。そして、本件仮契約の施設目録には「面積」として3.7 haと記載されている。そうすると、本件売買契約の対象物件を利用するために締結された右各賃貸借契約の対象面積と本件売買契約(本件仮契約)の対象面積とが一致するから、右3.7 haの範囲の本件土地上の造成地もまた右売買契約の対象物件となっていることは明らかである。

したがって、被告会社は、本件売買契約によって、その所有に係る造成地及び本件施設を亀岡市に代金六億五四〇〇万円で譲渡したことになる。

ニ 財産区の財産の処分等に対する知事の認可

前記イのとおり、被告会社が、開発対象地に含まれる財産区所有地の造成地の区分所有権を加工の規定の類推適用により取得し、これを亀岡市に譲渡し得るとしても、右区分所有権の取得及び譲渡につき、財産区は、知事の認可(法二九六条の五第二項)を得ていない。しかし、本件では、被告会社は、山林の開発対象地に財産区所有土地が含まれていたため、財産区との間で、OSU―Kの学校用地に供する目的であることを明記した賃貸借契約を締結することとし、その事実を証するため、平成元年一〇月三一日付けの被告会社から財産区に対する「財産区用地借用の申入れについて」と題する書面を林地開発許可申請書に添付して、森林法一〇条の二に基づく林地開発許可申請をしている。そして、被告会社は、平成二年八月三一日付けで、京都府知事より右申請を許可されている。そうすると、林地開発行為は、必然的に開発対象地を表層部分である造成地とその下に接する原地層とに区分することになるから、このような開発の許可には、その性質上、開発の結果、必然的に生ずる造成地を財産区が被告会社に取得させることの認可まで含まれているものと解すべきである。

ホ 以上のとおり、亀岡市は、本件売買契約によって被告会社からその所有に係る造成地及び本件施設の所有権を有効に取得したことになるから、右売買契約は、売買代金六億五四〇〇万円の対価に見合う権利を取得できない契約ではない。したがって、本件売買契約は、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないことを規定する法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に何ら反しないし、他方、被告会社は、造成地及び本件施設の所有権を亀岡市に移転することの対価として六億五四〇〇万円の支払を受けるのであるから、不当に高額の代金の支払を受けるわけでもなく、本件売買契約には、無効とすべき点はない。

(予備的主張)

本件売買契約の対象物件は、前記1(一)(2)(予備的主張)のとおり、球技場という一体となった施設であり、右球技場は、現に一般市民に開放され、利用されているのであるから、本件売買契約によって、売買代金六億五四〇〇万円の対価に見合う権利が取得できないとはいえない。また、亀岡市は、球技場を直接作る代わりに、被告会社が建設した球技場を同社から購入し、所有することにしたのである。学校敷地を含めての造成工事費は、設計管理費を含めて四億七八七四万四〇〇〇円であって、亀岡市が購入した部分を設計図により分別計算すると、四億一四五一万四〇〇〇円となる。これが、亀岡市が負担すべき造成金額となり、本件の造成地の価格となる。そして、右造成地の価格(造成費用)と本件売買代金六億五四〇〇万円との差額二億三九四八万六〇〇〇円が、本件施設の価格及びそれに関する事務費ということになる。このように、本件売買代金は、亀岡市が造成工事をし、本件施設を所有しようと思えば要した費用の合計額にほかならないから、不当に高額とはいえない。

したがって、本件売買契約は、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないことを規定する法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に何ら反しないし、他方、被告会社は、有機的一体としての球技場を亀岡市に譲渡したことの対価として六億五四〇〇万円の支払を受けるのであるから、不当に高額の代金の支払を受けるわけではなく、本件売買契約には、無効とすべき点はない。

(三) 公有財産に関する法の定めに反することによる無効

(1) 原告らの主張

イ 地方公共団体の財産は、いわば住民の所有に属する公の財産であり、常に適切な管理の下に良好な状態における財産の保全が確保されなければならない。そこで、法は、地方公共団体の財産についてわざわざ一節を設け(法第九章第九節)、財産の取得、管理、処分が厳格に行われるように定めている。地方自治体が取得した財産については公有財産、物品、債権、基金に分類され(法二三七条一項)、更に、公有財産については不動産、船舶、航空機等、それらの従物、地上権、賃借権等、七項目に分類されている(法二三八条一項一号ないし八号)。公有財産は、行政財産と普通財産に区分される(同二項)。そして、分類された特性に応じて地方公共団体の各財産は、取得、管理、処分の手続が定められ、地方自治体財産の良好な管理が図られているのである。この法の趣旨は、公有財産の管理体制を確立し、責任の所在を明確にして、地方自治体の財産の不当、違法な流出を防止する点にある。

ロ 前記のとおり、本件売買契約の対象物件である本件施設及び被告ら主張の造成地は、本件土地の構成部分ないし本件土地の定着物にすぎず、独立の不動産、(法二三八条一項一号)ではないし、また、法定された公有財産のいずれにも分類し得ないものである。そうすると、本件売買契約は、公有財産に分類できない財産の取得を目的とするものであって、公有財産を法二三八条一項所定のものに限定し、地方自治体の財産の不当、違法な財産流出を防止しようとする法の趣旨に反し、違法無効である。

(2) 被告らの主張

(主位的主張)

亀岡市は、被告会社から、本件売買契約によって造成地及び本件施設の所有権を取得した。これらの売買契約の対象物件は、前記1(一)(2)(主位的主張)のとおり、いずれもその性質は不動産というべきであり、法二三八条一項一号の「不動産」に該当する。したがって、本件売買契約は、公有財産に分類できない財産を取得しようとするものではないから、法二三七条一項、二三八条一項の趣旨に何ら反しない。

(予備的主張)

原告らは、公有財産は、法二三八条一項一号ないし八号に列挙するものに限るとしているが、同条は、公有財産の適正管理の観点から重要な財産を類型的に定めたものにすぎず、これを限定的に解しなければならない理由はないと考える。けだし、法二三八条が公有財産を同条所定のものに分類している趣旨は、公有財産の管理が適正に行われることを担保する点にあるから、適正に管理をなし得る財産であれば、法二三八条列挙以外のものでも、公有財産に含めて解釈してもよいからである。

これを本件についてみると、亀岡市が直接、本件の球技場を建設しようと、被告会社が建設した球技場を亀岡市が買い受けようと、その管理において格別異なるところはなく、現に本件の球技場は、亀岡市球技条例のもとに適正に管理されている。そうすると、前記1(一)(2)(予備的主張)のとおり、土地に定着し、一体として機能する本件の球技場は、法二三八条一項一号の「不動産」ないし「不動産に準ずるもの」として公有財産に含めてよいと考える。

2  本件売買契約の締結及び本件公金支出の違法性(争点2―原告らの第二次的主張)

(一) 原告らの主張

(1) 被告会社は、OSU―Kの設立資金七億八〇〇〇万円を全額融資に頼り、この融資は平成三年六月三〇日に一括して返済することとなっていた。しかし、OSU―Kは、設立以来、大幅な定員割れが続き赤字が嵩み、右融資の返済の目途が立っていなかった。右のような状況の下、被告谷口は、突然、「国際広場球技場」構想を表明し、被告会社から右造成工事によって作られた施設を購入するため、補正予算という異例な方法で処理した。その後、本件売買契約が締結されたが、前記1(一)(1)のとおり、亀岡市は、本件売買契約によって売買代金六億五四〇〇万円の対価に見合う権利を何ら取得していない。そして、本件売買代金六億五四〇〇万円の内訳は、被告会社が請負人に発注した造成、建設費用及びその消費税、設計管理費用であり、これは、被告会社が請負人に支払う請負代金そのものである。

これらの事実を総合すれば、本件売買契約の売買代金の支払は、請負代金を初めとして設立資金返済の目途が立たなくなった被告会社に対する財政援助行為であることは明らかである。このようにして、被告谷口は、亀岡市の長として職務を忠実に執行する義務があるにもかかわらず、右義務に違反して被告会社と通謀して本件売買契約を締結し、被告会社のために亀岡市に六億五四〇〇万円の本件公金支出をさせたのである。

したがって、本件売買契約の締結及び本件公金支出は、地方自治体の資金は必要最小限度を超えて支出してはならないことを規定する法二条一三項、地方財政法四条一項に、また、公共性のない株式会社に対する財政援助行為であるから、法二条、二三二条の二に、そして、「公の支配の属しない」「教育事業」に対する支出として、憲法八九条後段にそれぞれ違反するというべきである。

(2) 本件では、被告谷口は、自己の支出命令権限に属する事務を助役及び補助職員に代決ないし専決させているが、本件売買契約の締結及び本件公金支出に関して、何度となく亀岡市議会でその違法性を指摘され、法の定める財産管理の原則に違反する旨の指摘を受けていた。それにもかかわらず、被告谷口は、かかる議会からの指摘に対して誠実に対応することなく、本件売買契約の締結及び本件公金支出を積極的に推進したのであるから、右代決者や専決者の支出命令を故意に阻止しなかった点につき、指揮監督責任を免れない。

(二) 被告らの主張

原告ら主張の本件売買契約が目的物の存在しない偽装、仮装売買であるとか、本件売買契約の締結及び本件公金支出が被告会社に対する財政援助行為であるとの点は、否認する。

原告らの右主張が成り立つためには、被告会社が本件造成工事の請負人に対し、工事請負代金を全く支払わず、売買代金の全額が被告会社の赤字に填補されている事実があって初めて本件売買契約が偽装売買といえるのであるから、これらの事実を主張、立証しない原告らの前記主張は失当である。

また、本件において、本件施設の購入目的、購入費につき、補正予算として平成三年三月一五日に、公用財産への編入、公共の用に供せられること等につき、同年六月二五日に、いずれも賛成二四名、反対五名(議長を除く)の多数で、亀岡市議会の議決で可決承認されている。そうすると、亀岡市議会の可決後は、被告谷口は、右議決に拘束されて公金を支出するのであるから、本件公金支出は、何ら違法ではない。

したがって、本件売買契約は、平成三年六月二五日の亀岡市本議会の議決に基づき本契約として効力を生じたものであり、また、本件公金支出も、右契約に基づきなされているのであるから、適法であって、これらが、法二条一三項、二三二条の二、地方財政法四条一項、憲法八九条後段に違反する違憲、違法なものではないことは明らかである。

3  本件公金支出の違法性(争点3―原告らの第三次的主張)

(一) 原告らの主張

本件施設は、前記1(一)(1)のとおり、実体のないおよそ所有権の対象となり得ないものである。このような場合、本件売買契約において「施設」の所有権を移転することを目的とする「売買」という文言が用いられていても、右施設の所有権を移転することができないことは明らかであるから、この「売買」という文言は、法的効果を求める意思表示としては意味のないものというべきであって、本件売買契約は、法的には存在しないというほかない。

したがって、被告谷口が、本件売買契約が存在しないにもかかわらず、代金六億五四〇〇万円を助役及び補助職員に支出をさせた行為は、亀岡市の長として職務を忠実に執行する義務に違反する違法な行為である。

(二) 被告らの主張

右主張は、争う。

第三  争点に対する判断

一  本件売買契約の無効(争点1―原告らの第一次的主張)

1  本件売買契約は、目的物の存在しない原始的不能を目的とする無効な契約か否か

(一) 本件売買契約が本件施設の所有権を被告会社から亀岡市に移転させることを目的にしていることは、当事者間に争いがない。ところで、ある契約が原始的不能か否かは、債権の目的たる給付が取引観念上、履行期において実現可能か否かによって判断されるから、これを本件売買契約についていえば、本件施設(及び被告ら主張の造成地)の所有権の移転という給付が取引観念上、実現可能か否か問題となる。言い換えれば、これは、本件施設及び造成地が取引観念上、土地から独立して所有権の客体となる土地の定着物(民法八六条一項)か、それとも土地から独立して所有権の客体にはならない土地の構成部分にすぎないのかの問題である。

(二) 証拠(甲一六、乙二、検乙一、三ないし六、一四)、前記第二の二の事実、弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(1) 球技場

別紙二―1ないし4の図面によれば、多目的グランドを含む球技場は、地中に設けられた暗渠排水管、フィルター材とグランドバインダー、化粧砂、真砂土、砕石からできており、ポール掲揚台も、球技場に付着して設置されている。また、多目的グランドは、本来、OSU―Kに関する開発に際し生じる災害の危険を防止するための調整池である(甲一六、乙二)。

(2) 倉庫

倉庫は、別紙四にあるとおり、多目的グランドの一部と認められる。

(3) テニスコート

別紙三―1ないし4の図面によれば、テニスコートは、地中に設けられた暗渠排水管、フィルター材とテニスコートの表面の透水型合成ゴム糸舗装材(トップエースW)、開粒度アスコン、テニスコートの地中の砕石からできている。

(4) イベント広場(駐車場)

イベント広場(駐車場)は、左記(5)のシンボルロードを挟んで右(3)のテニスコートの西側にあり、アスファルト舗装が施されている駐車場(八〇台収容可能、甲一四)であり、そこには、本件土地とは区別される物は存在しない。

(5) シンボルロード

シンボルロードは、OSU―Kに至るコンクリートのブロックが敷きつめられているインターロッキング舗装のされた道路であり、右道路上には後記(四)(2)のモニュメントがあるのみで、他に本件土地と区別される物は存在しない。

(三) 右の(1)ないし(5)の各事実からすると、本件施設のうち、球技場、倉庫、テニスコート、イベント広場(駐車場)、シンボルロードは、独立の経済的価値があるとはいえず、他方、土地との物理的結合の程度が強いから、本件土地の構成部分というべきであって、土地に固定的に付着して容易に移動し得ず、取引観念上、継続的にその土地に付着せしめた状態で使用されると認められる土地の定着物とはいえない。

なお、被告らは、本件土地の構成部分であっても、区分所有権が成立すると主張するが、後記2(二)(4)イ(ロ)のとおり、土地の区分所有権を解釈論として認めるべきではないから、土地の構成部分につき、独立の所有権が成立する余地はないというべきである。

(四) しかし、他方、証拠(検乙二、五、六)、前記第二の二の事実、弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(1) パーゴラ

パーゴラは、周囲に壁があるわけではないが、屋根があり、シンボルロード上に付着されている。

(2) モニュメント

モニュメントは、シンボルロード上に付着されており、煉瓦造りの塔で、先端部には時計が埋め込まれている。

(3) 便所

便所は、本件土地に付着されており、屋根があって周囲を壁で囲まれており、風雨をしのげる構造となっている。

(五) 右の(1)ないし(3)の各事実からすると、本件施設のうち、パーゴラ、モニュメント、便所(以下「パーゴラ等」という。)は、独立の経済的価値があるといえ、他方、土地に固定的に付着して容易に移動し得ず、取引観念上、継続的にその土地に付着せしめた状態で使用されると認められるから、本件土地の定着物と評価すべきである。

(六) したがって、前記(三)の認定によれば、本件施設のうち、球技場、倉庫、テニスコート、イベント広場(駐車場)、シンボルロードを目的とする限度では、本件売買契約は、目的物が存在しないといわざるを得ない。しかし、右(五)の認定によれば、本件施設のうち、パーゴラ等は、その所有権を移転することが可能な土地の定着物というべきである。

そして、被告らは、被告会社は平成二年九月五日、財産区からOSU―Kの用地として使用することを目的として財産区所有の面積六万三七七二平方メートルの土地を賃貸期間二〇年、賃料年額六三六万〇七五〇円等の内容で賃借する旨の契約を締結し、これに基づき開発対象地の造成工事を施行し、本件施設を本件土地に設置した旨を主張し、その事実は、前記第二の二3(三)、(四)のとおり、当事者間に争いがない。右被告らの主張は、被告会社が財産区から右のとおり、土地を賃借して土地の定着物と見られるパーゴラ等を設置したものであるから、民法二四二条但書の「権原ニ因リテ其物ヲ附属セシメタル」物として被告会社が右各施設の所有権を留保し得るとの主張を含むものと解される。そこで、この点につき判断するに、右土地の賃貸借契約は、前記第二の二3のとおり、開発対象地の開発、本件土地上の本件施設設置のために必要なものとして被告会社と土地所有者である財産区との間で締結されたものであるから、右土地の賃借権が他人の不動産に自己の物を附属させてその不動産を利用する「権原」(民法二四二条但書)に該当することは明らかである。そうすると、パーゴラ等の所有権はこれを権原(土地賃借権)に基づき本件土地に附属させた被告会社に留保されるものと解される以上、亀岡市は、本件売買契約によってパーゴラ等の所有権を取得し得るというべきである。したがって、本件売買契約は、所有権移転可能なパーゴラ等を目的とする限度では、目的物不存在による原始的不能を目的とする契約ではない。そして、本件売買契約が一体として機能する「亀岡国際広場球技場」との名称の体育施設(本件施設)を対象としていることは、当事者間に争いがないから、本件売買契約は不可分な一個の契約であるというべきところ、本件売買契約の目的物である本件施設の中には、前記のとおり、所有権移転が不可能な施設が含まれているとしても、右のとおり、パーゴラ等の所有権移転可能な施設も存在するのであるから、本件売買契約全体が原始的不能を理由に無効となるものではないというべきである。

したがって、右の点に関する原告らの主張は採用できない。

2  本件売買契約は、亀岡市が売買代金の対価に見合う権利の得られない内容の無効な契約か否か

(一) 原告らは、造成地及び本件施設は、いずれも独立の取引客体とはならないものであるから、亀岡市がこれらを代金六億五四〇〇万円もの高額の代金で購入することは、その対価に見合う権利を取得できないこととなってその目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないことを規定する法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に著しく反し、本件売買契約は無効であると主張する。しかし、法二条一三項、地方財政法四条一項の規定は、地方公共団体がその事務を処理するに当たって準拠すべき指針を一般的、抽象的に示したものにすぎず、地方公共団体が購入する財産につき、これを具体的に規制するものではなく、また、右各規定を私法上の効力規定と解することもできないから、本件売買契約の右各条項違反による無効をいう原告らの主張は、失当である。

もっとも、原告らの右主張は、本件売買契約が亀岡市の得られる権利と比較して不当に高額の取引であり、社会通念上の妥当性を欠き、公序良俗に違反する無効な契約(民法九〇条)であるとの主張を含むものであると解され、かつ、その具体的な事実の主張としては、右主張事実と同一である。

したがって、右の点から、①亀岡市が売買代金の対価に見合う本件施設の所有権を取得したか否か、②被告会社が不当に高額の売買代金の支払を受けたか否かを検討する。

(二) 亀岡市が売買代金の対価に見合う本件施設の所有権を取得したか否か

(1) 本件土地のうち、財産区所有地上の本件施設の所有権取得の有無

本件施設のうち、球技場、テニスコート、パーゴラ、シンボルロードの各一部、倉庫、イベント広場(駐車場)、モニュメント、便所は、別紙一の緑色で表示された部分に存在し、財産区の所有地上にある(争いがない)。右各施設のうち、球技場、倉庫、テニスコート、イベント広場(駐車場)、シンボルロードは、前記のとおり、本件土地の構成部分にすぎず、原則として土地から独立して所有権の客体とはなり得ないから、これらの所有権が本件売買契約によって被告会社から亀岡市に移転する余地はない。

これに対し、パーゴラ等は、土地から独立してその所有権を移転することが可能な土地の定着物というべきである。そして、右各施設は、財産区の所有地上にあるが(もっとも、パーゴラの一部は、被告会社所有地上にある。)、前記一1(六)のとおり、民法二四二条但書の「権原ニ因リテ其物ヲ附属セシメタル」物として被告会社がその所有権を留保し得るものと解される(右各土地上にあるパーゴラについては、被告会社がこれを一体としてその所有権を留保し得るものと解される。)。

したがって、パーゴラ等の施設については、被告会社がその所有権を留保し得る以上、本件売買契約によって、亀岡市は、被告会社からパーゴラ等の所有権を取得するものと解すべきである。

(2) 本件土地のうち、被告会社所有地上の本件施設の所有権取得の有無

本件施設のうち、別紙一の橙色で表示された被告会社の所有地上には、球技場(ポール掲揚台を含む)、テニスコート、パーゴラ、シンボルロードの各一部がある(争いがない)。これらの施設は、被告会社所有地の構成部分ないし附合物(民法二四二条)として、同社にその所有権が帰属すると認められるが、球技場、テニスコート、シンボルロードの各一部は、本件土地の構成部分にすぎないから、本件土地から独立して所有権の客体にはならず、これらの所有権が本件売買契約によって被告会社から亀岡市に移転する余地はない。但し、パーゴラについては、右(1)のとおり、財産区所有地上にある部分を含めて一体として民法二四二条但書によって被告会社が所有権を留保し得るものと解されるから、亀岡市は、本件売買契約によってパーゴラの所有権を取得するものと解すべきである。

(3) 以上のとおり、亀岡市は、本件売買契約によって本件施設のうち、パーゴラ等の施設の所有権を取得するものというべきである。

(4) 被告らの主張の検討

イ 主位的主張の検討

(イ) 被告らは、加工の規定(民法二四六条一項但書)の類推適用により、被告会社が財産区所有地の造成地の区分所有権及び本件施設の所有権を取得し、これと、被告会社所有地上の造成地及び本件施設を一体として亀岡市に本件売買契約によって譲渡したと主張するので、この点を検討する。

(ロ) 土地の区分所有権を認めることの是非

確かに、被告らも主張するように、区分所有権を含め、どのような内容の所有権を認めるかは、所有権の本質や土地の性質そのものから必然的に決定されるものではなく、立法政策に委ねられた問題といえる。しかし、民法二〇七条と異なる内容の被告ら主張の区分所有権を法の規定なく認めることは、物権法定主義(民法一七五条)との関係で問題を生ずるばかりか(土地の表面のみの所有権を否定する大判大六・二・一〇民録二三輯一三八頁参照)、解釈上、このような権利を認める場合には、所有権が物に対する排他的な支配権を内容とする権利であることに照らし、その公示方法が完備し、取引の安全を害さないような配慮が必要とされるべきである。空間や地下の一部を対象とする地上権や建物の区分所有権については、それぞれ立法的解決がなされ(民法二六九条ノ二、建物の区分所有等に関する法律)、公示方法が完備されているが、被告ら主張の造成地を対象とする区分所有権については、その内容、範囲が明確ではなく、これを公示する方法もないことから、解釈上、これを承認することは、取引の安全を害するおそれが高いといわざるを得ない。

仮に、右公示方法は対抗要件にすぎないから、亀岡市と被告会社が土地の各層の所有権を相互に認め合い、これで十分としている場合には、公示方法がないことを理由に各層の所有権を否定する理由はないとしても(民法一七六条参照)、被告会社が第三者に右造成地と原地層を譲渡してしまったような場合、亀岡市としては造成地所有権の公示方法がないことから、常に第三者から造成地及びその地上施設の収去に応じなければならないことになって、亀岡市の右造成地の利用関係が極めて不安定となる。

したがって、被告ら主張の土地の区分所有権を解釈上認めることは、相当でないというべきである。

(ハ) 加工の規定を不動産に類推適用することの是非

また、被告らは、加工の規定を不動産にも類推適用すべきことを主張する。しかし、被告らの主張を前提にすれば、無断で他人の土地に工作を加えた者は、土地のうち工作部分のみならず、一定の場合、土地全体の所有権も取得し得ることになる。しかし、右のような結論は、土地所有者に対し、償金請求(民法二四八条)では賄いきれない不利益を及ぼし、妥当性を欠くというべきであるし、被告らが引用する前掲最判昭五四・一・二五は、建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に第三者が材料を提供して独立の不動産である建物を完成させた場合の建物所有権の帰属につき民法二四六条二項の適用を認めたものにすぎず、本件とは事案を異にし、本件には適切でない。

むしろ、他人の不動産に工作を加えた者の保護は、不動産の用益権と不動産所有権との調整を図った不動産の附合(民法二四二条)の規定によるべきである。本件では、前記のとおり、本件施設のうち、土地の定着物と見られるパーゴラ等の施設については、被告会社がこれを設置するために財産区から賃借した土地及び自己の所有地に設置したものであるから、民法二四二条但書により被告会社が所有権を留保し得ると解される。

しかし、前記イ(ロ)のとおり、造成地の区分所有権を認める余地はないし、右のとおり、加工の規定を不動産に類推適用することも相当ではないから、被告らの右主張のうち、被告会社が本件売買契約によってその所有に係る造成地を亀岡市に譲渡したとの部分は、その前提において理由がなく、採用できない。

ロ 予備的主張の検討

更に、被告らは、亀岡市は有機的一体性を有する球技場の所有権を本件売買契約によって取得したとも主張し、これに沿う被告谷口の供述がある。しかし、亀岡市が一体性を有する球技場の所有権を取得したといっても、球技場全体を一種の集合物としてこれに単一の所有権を認めることはできないから、結局、右のようにいえるためには、球技場を構成する個々の施設及びその底地である造成地が所有権の客体となり得るような性質を有し、かつ、現に亀岡市にその所有権が移転しなければならないと解される。ところが、前記のとおり、本件施設は、土地から独立して所有権の客体となり得るパーゴラ等を除きいずれも本件土地の構成部分にすぎず、かつ、前記イ(ロ)のとおり、土地の構成部分(造成地)に区分所有権を認める余地はないから、亀岡市が本件売買契約によって一体となった球技場の所有権を取得したとの被告らの主張は、採用できないというべきである。

(三) 被告会社が不当に高額の代金の支払を受けたか否か

(1) 右(二)の認定を前提にすれば、亀岡市は、本件売買契約に基づき、被告会社に対し六億五四〇〇万円もの代金を支払わなければならないが、同市が本件売買契約に基づいて被告会社から所有権移転を受けることのできる物件としては、本件施設のうちパーゴラ等のみであるということになる。

ところで、前記第二の二3(四)のとおり、被告会社が出掲した開発対象地の造成工事費は、設計管理費を含めて四億七八七四万四〇〇〇円であり、本件売買契約によって亀岡市が購入したとされる部分を設計図に基づき分別計算すると、四億一四五一万四〇〇〇円となって、本件売買代金六億五四〇〇万円の大半を造成費(被告主張の造成地の価格)が占めることになる。そして、証拠(甲四、一一、一四、一七、乙五)によれば、右造成費(造成地の価格)と本件売買代金六億五四〇〇万円との差額二億三九四八万六〇〇〇円の内訳は、①設計・監理費が一二八七万五〇〇〇円、②本件施設の費用が二億一二一三万八〇〇〇円、③モニュメント、事務費等のその他の費用が一四四七万三〇〇〇円であること、右②の本件施設の費用二億一二一三万八〇〇〇円のうち、便所の費用が一三五四万九〇〇〇円(23.34平方メートル)、パーゴラの費用が五三五万七〇〇〇円(27.0平方メートル)であることの各事実が認められる。これらの事実によれば、パーゴラ等のおおよその価格は、右③のモニュメント等の費用一四四七万三〇〇〇円、右②のうち、便所の費用一三五四万九〇〇〇円、パーゴラの費用五三五万七〇〇〇円を合計した三三三七万九〇〇〇円にすぎないことが明らかである。

そうすると、被告会社は、自己の給付に比して不当に大きな財産的利益を反対給付として受けたことになり、他方、亀岡市は、自己の得られる権利と比較して不当に高額の代金を被告会社に支払ったことになる。

(2) これに対し、被告らは、本件売買代金は亀岡市自身が造成工事をし、本件施設を所有しようと思えば要した費用の合計額にほかならないから、不当に高額とはいえないと主張し、これに沿う被告谷口の供述がある。

なるほど、前記のとおり、亀岡市がパーゴラ等の施設の所有権を取得し得るとしても、右施設の底地部分(本件土地)が被告会社及び財産区との間で賃貸借契約の対象になっていることは、当事者間に争いがないところ、右各賃貸借契約が二〇年の期間満了によって終了すれば、亀岡市は、右施設を収去して本件土地を原状に復して(民法六一六条、五九八条)、被告会社及び財産区に返還しなければならない。また、亀岡市が、これを収去しないで本件土地を被告会社及び財産区に対し返還したとしても、右施設は亀岡市が右各賃貸借契約中に造成したものでもないから、本件土地の前記造成工事費相当額につき有益費用の償還請求(民法六〇八条二項)もなし得ない。

したがって、亀岡市が被告会社に対し右造成工事費相当額を本件売買代金として支払う理由はなく、被告らの主張は、採用できない。

(四) まとめ

(1)  前記(二)(1)、(2)のとおり、本件売買契約は、亀岡市がこれにより被告会社から取得する権利(本件施設のうち、パーゴラ等の所有権)と比較して不当に高額の代金を被告会社に支払うことを内容とするものであるから、本件売買契約の締結は、その目的を達成するために必要かつ最少の限度を超えて経費を支出してはならないこと規定する法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に著しく反するというべきである。他方、前記認定(三)(1)のとおり、被告会社は、本件売買契約上の自己の給付(本件施設のうち、パーゴラ等の所有権の移転)に比して不当に高額な六億五四〇〇万円もの売買代金の支払を受けることになるから、その結果は、社会通念上、著しく妥当性を欠くものというべきである。

(2) もっとも、証拠(被告谷口、乙五)、前記第二の二1(三)の事実によれば、本件売買契約の締結については、亀岡市の実務担当をしていた当時の企画管理部長野原一郎は、被告会社に職員として派遣されており、また、亀岡市長の被告谷口は、本件売買契約締結の直前まで被告会社の代表取締役の地位にあったことが認められるから、被告会社が、亀岡市の窮迫や本件売買契約の締結手続の不備に乗じて本件売買契約を締結させたというような事情は認められない。

(3) しかし、前記(1)のとおり、亀岡市が本件売買契約により取得する権利がほとんどないのに対し、被告会社は六億五四〇〇万円もの売買代金の支払を受けることになるのであるから、本件売買契約の締結が右事実にもかかわらず亀岡市の利益になると認められる、合理的根拠がない本件においては、右(2)の事実をもってしても、本件売買契約の締結が法二条一三項、地方財政法四条一項の趣旨に著しく反し、社会通念上、著しく妥当性を欠くとの前記(1)の判断を何ら左右するものではない。

したがって、本件売買契約は、対価的な不均衡の著しい契約として公序良俗に違反し(民法九〇条)、無効というべきである。

3  被告らの責任

(一) 被告谷口の責任

被告谷口は、前記第二の二4(四)のとおり、本件売買契約を自ら締結したものであるが、本件売買契約は、右のとおり、公序良俗に違反する無効な契約と認められるから、かかる契約の締結行為は、執行機関たる市長の誠実執行義務(法一三八条の二)に著しく違反する違法な行為といえる。そして、右違法な本件売買契約の締結の結果、前記第二の二の事実によれば、亀岡市が市議会の議決を経て、本件売買契約に基づく代金の支払として六億五四〇〇万円を被告会社に支出するという事態を招来したことが認められる。そうすると、被告谷口は、右違法な財務会計行為たる本件売買契約の締結行為によって亀岡市から六億五四〇〇万円の支出をさせるという事態を招来し、同市に対し同額の損害を与えたことになる。したがって、被告谷口は、民法七〇九条に基づき、亀岡市に生じた右損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

(二) 被告会社の責任

(1) 他方、無効な本件売買契約に基づき、被告会社がその売買代金債務の履行として受けた六億五四〇〇万円の支払は、法律上の原因のない給付利得となるから、被告会社は、亀岡市に対し、右金員につき民法七〇三条ないし七〇四条に基づき不当利得返還債務を負うというべきである。

(2) なお、原告らの被告会社に対する不当利得返還請求は、住民訴訟に基づき亀岡市が公序良俗違反の売買契約に基づいて被告会社に対し給付した金員の不当利得返還請求権を代位行使するものであるから、右不当利得返還請求が「不法ノ原因ノ為メ」(民法七〇八条本文)なされたものであるとすれば、亀岡市が被告会社に対し、右請求をなし得ない以上、原告らも、右請求をなし得ないのではないかとも考えられる。しかし、民法七〇八条の趣旨は、ある行為の実質が当時の社会生活及び社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められる場合、そのような行為をした者に対する制裁として右行為に基づき給付した物の返還請求を認めないという点にあり、同条の「不法」も右のように社会において要求される倫理、道徳に反する醜悪なものであることを要すると解すべきである(最判昭三七・三・八民集一六巻三号五〇〇頁参照)。ところが、本件売買契約が公序良俗に違反するとされるのは、前記のとおり、亀岡市が右契約によって売買代金の支払に見合う権利をほとんど取得できず、それが地方公共団体がその事務を処理するに当たって準拠すべき法二条一三項、地方財政法四条一項の規定の趣旨に著しく反するという点にあり、これに、本件では、被告会社が亀岡市の窮迫等に乗じて本件売買契約を締結させたというような事情は認められないことをも考え併せれば、右契約は、公序良俗に違反するものではあるが、倫理、道徳に反する醜悪な行為とまではいえず、それは、民法七〇八条の「不法」には当たらないものと解するのが相当である。

したがって、原告らの被告会社に対する不当利得返還請求は、不法原因給付には当たらないというべきである。

(三) まとめ

このように、被告谷口が自ら無効な本件売買契約を締結したことは、亀岡市長としての被告谷口の誠実執行義務(法一三八条の二)に著しく違反する違法な行為であり、右違法な契約締結行為の結果として、亀岡市議会の議決、本件公金支出という事態を招来し、そのことによって亀岡市に売買代金額及び公金支出額と同額の六億五四〇〇万円の損害を与えたのであるから、被告谷口は、民法七〇九条に基づき、亀岡市に対し、右同額の損害を賠償すべき責任を負う。また、無効な本件売買契約ないし本件公金支出の相手方である被告会社は、法律上の原因なく右売買代金を受領したのであるから、受領した代金額と同額の六億五四〇〇万円につき、亀岡市に対し、不当利得返還債務を負う。そして、亀岡市に対する被告谷口の損害賠償債務と被告会社の不当利得返還債務は、同一給付を目的とするものとして、不真正連帯債務の関係に立つというべきである。

なお、原告らは、本件において仮執行宣言を求めるが、本件の事案の性質上、仮執行宣言を付することは相当ではないから、仮執行宣言は付さないこととする。

第四  結論

以上のとおり、本件売買契約が無効であるとの原告らの第一次的主張が認められるから、その余の主張を判断するまでもなく、原告らの請求は、理由がある。

(裁判長裁判官松尾政行 裁判官中村隆次 裁判官河村浩)

別紙一〜四〈省略〉

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